先日行った宙組公演『王妃の館 -Château de la Reine-』の感想です。
浅田次郎さん原作のドタバタ喜劇。原作は未読です〜。
次回作のネタに詰まった小説家、北白川右京を朝夏まなとさん(以下、まぁ様)が怪演。まるで壁紙のような柄の派手スーツ、不思議なボブカットなど、ビジュアルのインパクトは充分。まぁ様のビジュアルはいつも「少女漫画から出てきたみたい♡」と思うのですが、今回は少女漫画は少女漫画でも、魔夜峰央さんとか岡田あーみんさんとかの作品から抜け出てきたような濃ゆいキャラクターで、ほんと、一挙一動がもう面白くて面白くて。右京の動きは”ペンより重たいもの持ったことないもん”というかんじの妙な鈍くささがあって、逆にそれにまぁ様の運動神経、身体能力の高さを感じました……。
さて、そんな右京が取材旅行のために参加したのが、実咲凜音さん(以下、みりおんちゃん)演じる桜井玲子が社長を務める旅行代理店の、”太陽王ルイ14世の別邸「シャトー・ドゥ・ラ・レーヌ(王妃の館)」宿泊ツアー”。
そこでツアーのダブルブッキングがあったり、他のツアー客の心中騒ぎがあったり、恋人の魂を探すルイ14世が姿を現したりのドタバタが起こる……という話。
ルイ14世を主人公にした小説を書きたい右京は、真風涼帆さん演じる彷徨えるルイ14世の魂が語る彼と恋人の物語に目をつけ、彼と一緒に恋人の魂を見つけてみせると約束します。肖像画からドーンと出てくるルイ14世にも「(ネタが)降りてきた!」とはしゃぐ右京。
そして、突然現れた妙な日本人の口車にホイホイ乗ってツアーガイドまでする太陽王。それでいいのか太陽王。
「かっこいいけどうかつ」な人を演じる真風さんが好きです
しかし右京の作戦はうまくいかず、ルイ14世は騙されたと怒ってしまいます。
「人を愛することを知らないお前に真実の愛を描けるわけがない!」的なことをルイ14世に言われ、落ち込む右京。慰めようとする玲子。
玲子は他のツアー客の面倒もあったし、ずいぶん急速に二人の距離が縮まったな……とは思ったのですが、自信満々な人が自信を喪失して落ち込んでいたら、どうしたんだろう、と心配になりますよね。吊り橋効果っていう言葉がありますが、右京自体が吊り橋みたいなものなのかな、と捉えました。
みりおんちゃん演じる玲子自身も、倒産寸前の会社で破れかぶれのダブルブッキングツアーを企画して、社長として気を張っていて。落ち着く間もなく旅を続ける彼女の孤独と、誰かに必要とされたいという願いは「♪もうひとりのエトランジェ」で痛いほど伝わってきました。
ヅカファン歴の浅いわたしにとって、みりおんちゃんは生観劇の機会は少なかったものの、華奢で女性らしい佇まいがとても好きで、GRAPHのポートや愛用コスメ紹介記事などを楽しみにしていました。隣に立つ男役さんがすごく格好良く見える、そんな説得力があるんですよね。素晴らしいトップ娘役さんでした。
ダブルブッキングツアーの企画なんて、まともに考えたらひっどい話ですが、玲子に対してひどい奴だ、と思わないのは、右京や部下の戸川とのやり取りなどで彼女のひたむきさが伝わってくるから。きっと元は旅好きで世話好きの女の子が、理想を掲げて会社をやっていたんだろうに、にっちもさっちも行かなくて……というかんじが伝わるので、応援したくなってしまいます。(あとはツアー参加客が、あまりにも彼女の手に余っている感かもしれませんが)
最終的に、ルイ14世は恋人の魂と出会えて、ツアー客のいろんな事情も全て丸く収まり大団円。玲子は会社をたたむことにしますが、「取材に協力してほしいんだ」という右京の誘いに乗って、二人は仲良く新たな旅に出るのだろうな、というラスト。まぁ様の歌声の包容力、それに寄り添うみりおんちゃんの歌声に、とても幸せな気持ちになりました。
彷徨えるルイ14世が最愛の恋人と息子と再会できたように、右京と玲子という彷徨える二人も出会えて、愛を求めて自分の殻から出た右京は、前半と後半ではまるで別人のようです。それはもう、髪質までが柔らかく見えるほどに……。
まとまりなく感想を書いてしまいましたが、物語を通してわたしが感じたのは、
大事な人には、「わたしはあなたを必要としている」と自分から言うこと、そしてそのために踏み出す勇気が大切、ということ。
そして『王妃の館』のドタバタの妙は、右京と玲子とルイ14世だけでなく、個性豊かなツアー客たちの孤独な魂も、それぞれを必要とし合ってほぐれて結びついていったことにもあります。(不動産王が大活躍)。
優しい奇跡の連続で、温かい物語でした。
わたしが見落としただけかもしれませんが、まとまってないのは、劇中ヒィヒィ言っていた戸川くらいじゃないでしょうか。
彷徨える戸川の行く末は。